みんな大好きScott Janish
ビール界で発信力が強い人と聞いて真っ先に思いつくのは、以前ならMichael JacksonやGarret Oliverでしょうか。日本人ならサッポロビールの蛸井潔さんの論文をよく見ます。海外の論文（ジャーナル）にもよく引用されてますので、世界中で有名だと思います。最近だとBrewers AssociationのChief EconomistであるBart Watsonも名前が挙がる一人だと思います。中でも個人的に最も注目しているのは今回紹介するScott Janishです。発信力の強さ、影響力の高さはもちろんですが、何より彼の発信は、実用性が高く、客観性が担保されていて、深度が深い（専門性が高い）と思います。
Scott Janishは、書籍「The New IPA: Scientific Guide to Hop Aroma and Flavor」と、彼のブログで有名になりました。ビール造りにおけるホップの使い方（ホップアロマとフレーバーの引き出し方）の研究においては最も参考にされている読み物だと思います。特に近年のHazy/Jucy IPAのトレンドにおいて、彼が書籍やブログで取り上げているような知見なしでは優れたビール造りは不可能と言っても過言ではないでしょう。
Scott Janishの功績は様々ですが、一番大きな功績はこれまでのホップやビールに関する膨大な研究や検証をまとめて体系化したことだと思います。彼の書籍やジャーナルのフットノートを見れば一目瞭然ですが、一つの知見を説明するために膨大な量の論文や書籍が引用されています。論文を書いたことがある人なら分かると思いますが、これは本当に大変な作業で、自分が独自に検証した事柄を発表するよりもよっぽど骨が折れます。アカデミックな文章は客観性が重視されるので、「誰が何を主張した」「誰が何を検証して、何が証明された」というのをすべてはっきり記載しないといけません。私も大学院で論文を書くときに苦労しました。例えば「ビール業界で最も発信力が強いのはScott Janishだと言われている」という文章なんて書こうものなら、添削指示の嵐です。「”言われている”とは誰が言ったのか？」「”最も発信力が強い”というのは、どういう検証をした結論なのか？」とコメントが付くことでしょう。もし”正しく”書くとすると「Brewers Associationが2021年6月に実施した調査（※）によると、Scott Janishはビール業界で最も発信力が強いジャーナリストと認定された。（※BA会員による投票結果: https://xxxx.xxx/xxx」とかでしょうか。（内容は架空です）Scott Janishの文章には学術レベルの客観性があるので、価値が高いものとなっています。
また、Scott本人がブルワー（ホームブルワー？）で、自ら様々な実証や測定をしていることも大事なポイントです。コンピューターの画面とにらめっこしながら論文をまとめるだけの人なら、こんなに共感を得られることはなかったでしょう。自らビールを造り、実践によって理論を検証するから信憑性が高いのだと思います。しかも、その発信や実証の動機は、会社組織のためではなく、ビールを愛する個人としての好奇心や探究心が原動力となっているので、ビールの造り手やビール好きの人々の心により強く響きます。研究機関や大きな会社に所属する人の発信には、組織に対する何らかの配慮があることが多いと思います。例えばノウハウを隠さないといけなかったり、自社の商品に都合の悪いことが書けなかったり。Scottの発信は個人のものなので、純粋です。ノリは個人ブログの気軽さなのに、ジャーナル並の客観的な検証をしているならまさに鬼に金棒、面白いのは当たり前だということがお分かりいただけると思います。
というわけで、今年発表されたこのドライホップに関するジャーナルも弊社の社内で話題になっています。なのでこの投稿のタイトルに「みんな大好きScott Janish」とつけました。また、実は弊社の新定番Hop FrontierもScott Janishなしでは誕生し得なかったビールです。彼のブログや書籍の内容に触発されて企画したのがきっかけでした。ぜひ飲んでみてください^^
なお、私がMediumで書く一連の文章はScottの高尚な文章と違って客観性があまりないですが、今後も気軽に書いてゆきたいのでよろしければ引き続きお付き合いくださいmm