Liquid Hopは標準になるのか

Shiro Yamada
Nov 5, 2022

--

先週はタイ・バンコクで開催されたSewBrewというカンファレンスに参加してきました。その中で一番印象に残ったのは各社が出してきているLiquid Hop製品群です。この手の製品でいま一番注目を集めているのはBarthHaasのSpectrumと思いますが、他のサプライヤーからも注目製品が紹介されていたので、ご紹介したいと思います。いつもながら薄い内容の投稿なので諸々ご容赦くださいmm

Liquid Hopとは

似たような言葉としては、Hop OilとかCO2 ExtractとかHop Extractがあり、部分的には同じ意味で使われますが、最近はLiquid Hopという言い方が一般的になってきたようです(たぶん)。まだ正式な定義はないかもしれませんが、各社が使っている言葉を総合すると、Liquid Hopはホップ成分100%で、抽出油、アルコール、乳化剤などが含まれていないものを指すようです。そういう意味ではビタリングに使われているCO2 Extract製品やBarthHaasのIncognitoもLiquid Hopの仲間と考えて良さそうです。

Liquid Hopの製造方法は、詳細は企業秘密となっているようですが、CO2 Extract法が基本になっているようです(たぶん…)。CO2に圧力を加えて昇温すると気体と液体の中間である流体状態、いわゆる超臨界流体と言われる状態になります。その超臨界流体を溶媒にして、ホップのモノテルペンアルコールなどの香気成分と、α酸などの樹脂成分を抽出し、その後流体の圧力を元に戻してCO2を気化させると、香気成分や樹脂成分などの有効成分だけが残るしくみです。

超臨界流体

CO2の場合、超臨界流体になるためのPc=7.4MPa、Tc=31℃くらいとされており、低温で有効成分が抽出できることが分かります。

各社のLiquid Hopの特徴

BarthHaasはSpectrumをドライホップ用、Incogniteをワールプール用と位置づけています。SpectrumはAFDH(Active Fermentation Dry Hop=アーリードライホップ)や発酵終了後にも使えますが、基本的には発酵後期(ターゲットまであと1–2プラトーくらいの時期)に投入することがお勧めされていました。BarthHaasは今後もラインナップを増やして行くような印象でした。

Yakima Chief HopsもLiquid Hopの新製品を出すようで、α酸を含むものとα酸を含まないものの2パターンあるような話を聞きました(未発表)。また、今回のSewBrewでは見なかったですが、HopsteinerもLiquid Hopの製品を出しています。

Totally Natural Solutionsというイギリスの会社が出していたのは、ビタリング、ワールプール、AFDH、ドライホップ、BBTへの投入など用途に応じたLiquid Hopの製品群。これは圧巻でした。遠心後のBBTに入れられたらアロマインパクトは最大化できますね。また、アロマやα酸だけじゃなくて、ビールを濁らせるLiquid Hop製品(HopPlus)もありした。フェイクHazy IPAができちゃいますね。

Liquid Hopのベネフィット

ホップサプライヤーは「ビールのロスが減る!」という訴求をしてくることが多いですが、それ以外にもベネフィットがたくさんありそうです。

経済的ベネフィット:ビールや麦汁のロスがかなり減る、保管スペースが少なくて済む、ホップカスの処理が不要

品質的ベネフィット:ホップクリープがない、アロマやBUの一貫性が上がる、ドライホップに伴うpH上昇もたぶん小さい?(要検証)

安全衛生面:ホップバッグを担いでハシゴを上がらなくていい、タンクの汚れがこびりつきにくい

作業性:ドライホップのコンタクトタイムを気にしなくていい、ホップガンなどを使わなくて良い(時短)、ドライホップ後でも酵母回収できちゃう?(要検証)

環境面:ブルワリーサイドでの廃棄物(ホップカス)の量が減る

仮にペレット(T90やCryoなど)と同じアロマ・フレーバーインパクト(同じ品質レベル)を実現できると仮定したら、良いことしかありません。もうこんなんLiquid Hopを使わない手はないんじゃないかと思ってしまいますね。うちもホップ用にコンテナ冷蔵庫買って損したかな(笑)

Liquid Hopの将来

今はまだ利用可能なホップ品種が限られているという制約条件はありますが、各社からもっと幅位広い製品が出揃ったら、近い将来ペレットが置き換わってLiquid Hopが主流になる可能性もあると思います。

ホップのハンドリングがしやすくなると、ホップの使い方で差がつかなくなるので、美味しさの追求としては「より高品質な麦汁を造る」ことが大事になってくるのではないかと妄想しております。

「ブルワーの創意工夫の余地が少なくなってビールがつまらなくなるのでは?」という危惧もあるかもしれませんが、こういう進化は後戻りできないもの。ホップはサプライヤーから出されるお手軽製品の力を借りたとしても、他の部分で創造性を発揮していくことでビールの面白さを発展させることはできるんじゃないかと思っています。

--

--

Shiro Yamada

ビール、蒸留酒 Far Yeast Brewing株式会社 代表取締役 https://faryeast.com/